2011/01/05

[書評] 数覚とは何か?―心が数を創り、操る仕組み

数覚とは何か?―心が数を創り、操る仕組み数覚とは何か?―心が数を創り、操る仕組み
スタニスラス ドゥアンヌ Stanislas Dehaene

早川書房 2010-07
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最近かなりの数の本を読んでいるのだが、読んだ端から内容を忘れていってしまう。そういうわけで、これからはなるべく防備録もかねてレビューを書いていきたいと思う。

この本は私たちの脳で数がどのように表現されて処理されているのかについての、進化・発達心理学・神経心理学・脳科学的な研究をまとめた本である。さまざまな実験結果から、「3までの数字」「おおざっぱな概算」「記憶された算術手続きに基づいた計算」「公理と記号論理規則からなる論理体系としての数学」は別の処理であり、それぞれ進化や発達のなかで獲得され、脳の別領域にマッピングされていることが示されている。もちろん数的処理と言語処理との間には強いリンクがあり、それに関する考察も行われている。また、これらの知見をもとに、数学をどのように教育すべきかについても提言を行っており、発達の初期段階ですでに持っている量的操作と計数操作を重視して、そこから子供の好奇心を刺激しつつ数字に対する直感を養っていくべきだとしている。

これまで自分が数字・数学に対して持っていた茫洋とした疑問が、さまざまな実験や神経心理学的知見によってクリアになっていく感覚があって、とても面白かった。私が思っていた以上に数的処理は言語処理とは異なっており、不連続・非一様な処理であることがわかる。その不連続性については教育場面でももっと強調されるべきかもしれない。また言語処理と比べると数的処理は脳にとって「ネイティブ」ではないのだということがわかった。これらの特徴は、時間知覚と類似するところが多いのではないかという印象を受けた。その意味でこの本は、混沌としている(ように私の目からは見える)時間知覚研究をはじめとした、他の心的メカニズムにアプローチする際のヒントになるのではないかと感じた。

2009/11/24

MATLAB for OSXでfigureをexportする

割とハマって時間をとったので自分用のメモ。

Mac版Matlab(R2009a)でfigureをpdfやaiなどのベクターファイルにエクスポートしようと思ってもうまくいかない。

そこでMATLAB CENTRALでexport_figというスクリプトをダウンロードしてくる。Ghostscriptをインストールしないといけないので、ここからダウンロード。

まだaxisの範囲が狂ったりするけど、とりあえずillustratorでいじれるファイルをはき出してくれたのでよしとしよう。

2009/10/23

Remington, A., Swettenham, J., Campbell, R., & Coleman, M. (2009). Selective attention and perceptual load in autism spectrum disorder. Psychologycal Science, in press.

参加しているプロジェクトのうちに自閉症がらみのものがある関係で、Psychological Scienceのforthcommingからチョイス。

いわゆるLavie的なperceptual loadの効果をASD (Autism Spectrum Disorder) の人たちで調べてみたとのこと。サーチ課題とは非関連なディストラクタをうまく無視するために必要な負荷量は、non-ASDグループよりもASDグループで高かった。しかもASDの人たちはサーチ課題のパフォーマンス自体はコントロールグループと変わらなかった。これらの結果は、ASDの人たちが視覚探索などで高いパフォーマンスを示す知見などと一致しており、ASDの人たちはコントロール群よりも高いperceptual capacityを持っていることを示唆している。

この手のデータがまだ報告されていなかったんだ、と意外に思った。自閉症と注意の関係はけっこう昔から言われているし、Lavieの話も有名なので、もうすでに誰かがやっているものだとばかり思っていた。データに関しては特に問題ないが、AQスコアーとの相関は調べておいてよかったんじゃないかと思った(うまくでなかったのかもしれないけど)。

ディスカッションが意外に薄かった気がする。これでこの雑誌に載るということは、Lavieの話と自閉症のネタを組み合わせたことの新規性が評価されたということか、ASDの人たちが高いperceptual capacityを持っているというcounterintuitive finding(でもない気がするけど)が評価されたということなのでしょうか。このあたりはまだこの分野を勉強不足なのでよくわからない。



 SELECTIVE ATTENTION
  • 注意のlocus of selectionは知覚的負荷(perceptual load)によって変化する(Lavie's load theory)。
  • 知覚的負荷が低いときは課題非関連なディストラクタも処理される(後期選択)
  • 知覚的負荷が高いときはディストラクタは処理されない(初期選択)
  • 知覚的負荷と課題難易度とは同一ではない。例えばターゲットの視認性を下がったことによってパフォーマンスが低下しても、ディストラクタからの干渉量は減少しない(Lavie & Fockert, 2003)。

AUTISM AND ATTENTION
  • 注意と自閉症との関係に関する研究はよくわからない状態。
  • Dawson and Lewy (1989):ASDは、多量の情報にさらされることによって、非関連な情報をフィルターアウトする能力が低下し、overarousalに陥る。
  • Burack (1994):パフォーマンスに対するディストラクタの効果がコントロール群と比べて増加。ASDは注意のレンズが過度に広いので、刺激にうまく注意できていないと結論。
  • これまで検討されていなかった枠組み(知覚的負荷)で、自閉症と注意の関係を調べてみることが重要。

METHOD
Participants
15人の成人ASDと25人のコントロール群。ASD群のうち、3名は自閉症、11名はアスペルガー症候群の診断を受けている。

Stimuli and Procedure
ターゲットはX or N。ディストラクタはZ, H, K, Y, or V。円環状に配置。

実験要因はセットサイズ(1, 2, 4, 6)と課題非関連ディストラクタ(円の外に呈示される文字)の種類;neutral(T or L)/ incompatible(X or N;ターゲットと競合する文字)


RESULT
Reaction Time
課題非関連ディストラクタからの干渉量(Imcompatible -  Neutral RT)は、コントロール群ではセットサイズ4で消失するが、ASD群ではセットサイズ4でも干渉が生じている。セットサイズ6では消失。全体の反応時間には両群の間に有意差はない。


Accuracy Data
正答率は両群で有意な差はなかった。



DISCUSSION

Lavie (1995)によるとcentral taskが注意容量をすべて占有しない場合には、ほかの情報に対しても処理が行われるようになるとされている。もし、ASDグループがより大きいpercetual capacityを持っているとすれば、central taskの負荷が高まっていく時に、より高い負荷がかかるまで干渉を示さないということになるはず(しかもcentral task performanceは保ったまま)。

2009/10/15

Hannula DE, & Ranganath C. (2009). The eyes have it: hippocampal activity predicts expression of memory in eye movements. Neuron, 63 (5), 592-9.

[Science Direct]


昨年データをとってそのままになっているcontextual cueingのfMRI実験のデータ解析の参考になるかと思って読んでみた。解析の細かいところはよくわからないが、なかなかきれいにまとまっていて大変参考になりました。眼球運動をうまく組み合わせるとMRIでもなにかおもしろそうなことができそうな予感。


INTRODUCTION

HippocumpusとMTLは長期記憶の中でも手続き記憶と関連が深いとされてきた。加えて、シーン・イベントの文脈(およびその中でのアイテム間の関連性)のexplicit recognitionにも関与していることが示唆されている。しかし、最近の研究の中でimplicitな文脈記憶における海馬の役割が注目されてきた。

この研究では、implicit associative memoryにおける海馬の役割を、fMRIと眼球運動の同時計測によって調べようとした。


Method

学習フェイズではnatural sceneとface imageを対呈示して学習させた(216 pairs)。テストフェイズでは、sceneを1000ms先行呈示したのち、7000 msのブランクをあけ、sceneと3 face imagesを呈示して、学習フェイズでsceneと対呈示されていた顔がどれかを回答させた。



RESULTS

Behavioral Performance:
正答率は62.29%。眼球運動に関しては、刺激提示後500-1000msのレンジで、selected faceへの注視時間が、correct trials > incorrect trials。つまり、正しくretriveできたtrialでは、比較的早い時間帯で選択する顔に対して優先的に眼球運動が生じていたことを示唆している。
(コメント:incorrect responseではcorrect responseよりもRTが500msほど遅いので、この解釈はなんとなくすっきりこない。gaze cascade的にrepsonseでalignしたらどうなるのか見てみたい。)

MTL activity during the scene cue predicts disproportionate viewing of matching face
Matching faceとNonmatching faceの注視時間の偏りに基づいてtrialを分けて、MTLの活動を比較。Matching faceが多く注視されていた試行(DPM trials)で、Nonmatching faceにより多く注視されていた試行(NDPM trials)よりも強いBOLD signal、right hippocampusとright parahippocampal cortext、両側のperirhinal cortex(嗅周皮質)で認められた。

DPMの方が正答率が高いので、上記の活動と眼球運動は単にexplicit recognitionを反映しているだけなのかもしれない。それを確かめるために、recognition incorrect trialsでのDPM vs. NDPMを比較したところ、両側のhippocampusのactivationがDPM>NDPM。顕在的な再認に失敗した試行においても、海馬の活動が眼球運動に影響を与えうることを示唆。

Functional Connectivity between hippocampus and PFC
Connectivityを正解試行と不正解試行で比較したところ、テスト刺激が出ている時間帯で、left DLPFCとhippocampusのいくつかの領域、VLPFCとleft hippocampus、left parahippocampus, perirhinal cortexとの間にconnectivityの増加が認められた。


GENERAL DISCUSSION
顔刺激呈示前のscene cue呈示時の海馬の活動は、そのあとに顔刺激が呈示されたときにmatching faceに眼球運動が集中するかどうかを予測する(explicit recognitionが正解かどうかに関わらず)。一方、海馬とlateral PFCのconnectivityは正解試行でより増加する。つまり、海馬の活動は連合記憶の表現をサポートいるが、explicit recognitionが成立するためにはより広い領域を巻き込んだ活動が必要とされることを示唆している。

海馬のimplicit memoryへの関与に、どちらかというと否定的な最近の研究知見がいくつかある。例えば、contextual cueingに海馬が関与しているという知見(Chun & phelps, 1999)に対しては、Preston & Gabrieli (2008)が海馬の活動はimplicit memoryではなく、repeated layoutsに対するexplicit recognitionと対応しているという結果を示している。ただ、display configurationに対するcontextual cueingは、どちらかというとperirhinal cortexなどのparahippocampal regionsに依っているのかもしれない。

この結果は、Moscovitch (2008)の2段階モデルとよく一致するかもしれない。

Practical implicationとしては、眼球運動が連合記憶や海馬の活動をはかる有力な手段となるかもしれないこと。特に意識に上らない過去の経験や記憶が反映される可能性がある。